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筋トレの後、勝負に勝った後になぜか気分が前向きになるのはなぜ?

汗を流した筋トレの直後や、ちょっとした勝負事に勝った直後、なぜか気分が高揚して、いつもより積極的になれる。そんな経験に心当たりのある人は少なくないはずです。単に「達成感で気分がいいから」というだけでなく、この時、体の中では実際にホルモンの分泌量が変化していると考えられています。ふだんは控えめな人が、こうした場面に限って急に押しが強くなる、という現象も、単なる気の持ちようだけでは片付けられない生理的な裏付けがあるのかもしれません。

たとえば、久しぶりにジムで体を追い込んだ日や、白熱した試合や勝負ごとで格上の相手に勝てた日の夜は、なんとなく自分に自信が持てて、いつもより積極的な気分になれた、という経験がある人もいるかもしれません。

鍵を握っているのは、男女問わず分泌される代表的なホルモン、テストステロンです。テストステロンは「もともとの体質」や「年齢」だけで決まる一定量のホルモンだと思われがちですが、実は「今、何をしているか」という行動そのものによっても、分泌量が上下することが分かってきています。今回は、筋トレや勝負事といった「行動」がテストステロンの分泌をどのように底上げするのか、そのメカニズムを見ていきましょう。

テストステロンとは?「行動」によって底上げされる仕組み

まず、テストステロンがどのようなホルモンなのか確認しておきましょう。

用語解説:テストステロン

男女問わず分泌される、積極性や性欲にかかわる代表的なホルモンです。

テストステロンは、主に精巣にあるライディッヒ細胞と呼ばれる部分で作られています。脳の下垂体から分泌される黄体形成ホルモン(LH、性腺に指令を出すホルモン)がこのライディッヒ細胞に働きかけると、コレステロールを材料にテストステロンが合成され、血液中に放出されるという流れです。作られたテストステロンは、全身の細胞にあるAR受容体(アンドロゲン受容体、テストステロンを受け取る鍵穴のような仕組み)に結合することで、筋肉の増強や積極性の高まりといった様々な作用を引き起こすと考えられています。

脳の下垂体からライディッヒ細胞へ指令が伝わり、テストステロンが作られる経路を示すイメージ図

このLHからライディッヒ細胞への指令は、いわば工場への「発注」のようなものです。発注が増えれば増えるほど、工場の生産ラインがフル稼働してテストステロンの出荷量が増える。この一連の流れをホルモン分泌の「基本ライン」だとすると、今回のテーマである「行動による底上げ」は、この基本ラインの上にさらに一時的な“追加発注”が乗っかるようなイメージだと捉えると分かりやすいかもしれません。

なお、テストステロンは男性だけのものではなく、女性の卵巣や副腎皮質でも量こそ少ないものの作られており、性別を問わず心身の働きに関わっていると考えられています。基本となる分泌量には年齢や個人差が大きく影響するため、これから紹介する「行動による底上げ」の効果の感じ方にも個人差があると考えておくのがよさそうです。

豆知識:「テストステロン」という名前の由来

ちなみに、テストステロンという名前が付けられたのは1935年のことです。オランダの研究者らが牛の精巣からこのホルモンを単離して命名したのと同じ年に、コレステロールを材料にした化学合成にも成功したという記録が残っています。この化学合成に貢献した研究者の一人は、後にノーベル化学賞を受賞しています。大昔から男性らしさの象徴として語られてきたわりに、「テストステロン」という名前自体の歴史は意外と浅く、100年に満たないというのも興味深いところです。

なぜ運動や勝負が引き金になるのか、“追加発注”のからくりを追う

では、この“追加発注”はどのようにして起こるのでしょうか。特に研究が積み重ねられているのが、運動による一時的なテストステロン上昇です。

2020年に発表された、48件の研究・126件の試験結果をまとめた解析によれば、中程度から高い強度の運動を行うと、テストステロンの分泌量が一時的に、しかし明確に増加することが報告されています。具体的には、スクワットやデッドリフトのように複数の大きな筋肉を同時に使う種目を、休憩を短めに設定して高いボリュームでこなすようなトレーニング(いわゆる追い込み系の筋トレ)ほど、この上昇幅が大きくなりやすいと報告されています。運動を終えてからおよそ15〜30分後にテストステロン濃度がピークを迎えるとする報告もあり、いわば運動後にワンテンポ遅れてホルモンの波がやってくるようなイメージです。一方で、軽い強度の運動ではこうした変化ははっきり見られなかったとも報告されており、「体をある程度追い込むこと」自体が引き金になっている可能性が示唆されています。

たとえるなら、体という組織にとって、激しい運動は「今、緊急の増産体制が必要だ」という号令のようなものです。号令がかかると、普段の生産ラインに加えて臨時のラインが稼働し、テストステロンの出荷量が一時的に跳ね上がります。ただし、この増産体制はあくまで一時的なもので、運動が終わって時間が経てば、もとの生産ペースに戻っていくと考えられています。

この一時的な上昇は、単に体力面だけでなく、心理面にも影響を及ぼすと考えられています。具体的には、リスクを伴う決断をしやすくなったり、自分の判断に自信を持てるようになったりする傾向が報告されており、運動後に「いつもより思い切った行動ができた」と感じるのは、こうした心理面への作用も関係しているのかもしれません。

なお、同じ強度の運動をしても、この上昇の大きさには個人差があるとも報告されています。日頃からトレーニングに慣れている人と、たまにしか体を動かさない人とでは反応の出方が違う可能性があり、「筋トレの後は誰でも同じだけ積極的になれる」というほど単純な話ではなさそうです。

「勝てばテストステロンが上がる」は本当か?研究が示す意外な複雑さ

もう一つ、よく語られるのが「勝負に勝つとテストステロンが上がる」という、いわゆる「勝者効果」の話です。実際、対戦競技の勝者は敗者に比べてテストステロン濃度が高くなる傾向がある、とする研究がいくつか報告されており、勝敗という結果そのものがホルモン分泌に影響しているように見えます。

ただし、この解釈には近年、慎重な見方も示されています。大学のクロスカントリー(長距離走)の選手を対象にしたある調査では、レース中にテストステロンが上昇すること自体は確認されたものの、その上昇幅は最終的な順位(勝ち負け)とはあまり関係がなく、レースにどれだけ全力で取り組んだかという運動強度の方と関連が強かったと報告されています。つまり、「勝ったからテストステロンが上がる」というよりも、「本気で体を動かし、競い合う状況に身を置いたこと」自体が引き金になっている可能性があると考えられます。

初めての対戦相手に本気で挑んだ後や、真剣勝負の直後に、結果の勝ち負けにかかわらず妙に気分が高ぶっていた、という経験がある人もいるのではないでしょうか。テストステロンの“追加発注”を引き出しているのは、勝敗という結果そのものよりも、本気で体を張って何かに取り組んだという「行動」の強度なのかもしれません。

なお、2000年代に行われたある心理学の実験では、参加者同士を競わせた後のテストステロンの変化量を調べたところ、興味深いことに、負けた側であってもテストステロンが上昇した人ほど、同じ相手にもう一度挑みたがる傾向が強かったという報告もあります。テストステロンの変化が、単に「勝った実感」だけでなく、「もう一度挑みたい」という次の行動への意欲そのものとも関わっている可能性がうかがえる結果です。「勝敗という結果そのもの」がテストステロンにどう影響するのかというテーマは、掘り下げるとさらに奥が深いトピックのため、稿を改めて詳しく取り上げる予定です。ここではまず、「体を張って行動すること」自体がテストステロンを底上げする基本的な仕組みとして押さえておきましょう。

用語解説:DHT(ジヒドロテストステロン)

テストステロンがさらに変化した、より作用の強いホルモンです。

なお、テストステロンは全身の様々な組織で、5α還元酵素と呼ばれる酵素の働きによってDHTに変換されることがあります。DHTはテストステロンよりもAR受容体との結合力が強いと考えられており、皮膚や毛根、生殖器周辺など特定の組織では、テストステロンそのものよりも強い作用を発揮する場面があると考えられています。行動によって底上げされたテストステロンの一部が、体の各所でこうしたより強力な形に変換され、末梢での作用をさらに後押ししている可能性も指摘されています。

豆知識:DHTを抑える薄毛治療薬

ちなみに、DHTは毛根に対して脱毛を促す方向に働くことがあると考えられており、男性型脱毛症の治療薬の中には、この5α還元酵素の働きをブロックすることでDHTへの変換自体を抑えるタイプのものがあります。同じ「テストステロンの変換」という仕組みが、体の部位によっては望ましい方向にも、そうでない方向にも働き得るというのは、なかなか興味深い話です。

今回のまとめ

テストステロンは体質や年齢だけで決まる一定量のホルモンではなく、運動や真剣勝負といった「行動」そのものによって一時的に分泌が底上げされると考えられています。「勝負に勝ったから」というより、「本気で体を張って取り組んだこと」自体が引き金になっている可能性がある点は、覚えておいて損はないポイントです。この上昇幅には個人差もあるため、誰にでも一律に当てはまるとは限らない点にも留意しておきたいところです。

積極性・攻め系のコンテンツが気になる方へ

汗をかいた後のような高揚感を連想させる、光と影を強調した抽象的なイメージ

体を張って何かに本気で取り組んだ直後に積極性が高まりやすいという話を踏まえると、スポーツ後や勝負事の後といったシチュエーション設定、あるいは普段より積極的でアグレッシブなキャラクターが登場する展開に惹かれるのも、うなずける話です。汗を流した直後のような高揚感や、真剣勝負を終えた直後の火照った気分をモチーフにした演出は、この「行動による底上げ」の感覚をうまく追体験させてくれる仕掛けだと言えるかもしれません。試合や競技の後というシチュエーションが定番として好まれやすいのも、こうした生理的なリアリティの裏付けと無関係ではなさそうです。

トレーニングウェア姿での攻めのシチュエーションや、対戦・勝負をテーマにした立場逆転の展開など、「行動の直後」を切り取った設定にはバリエーションも豊富にあります。普段は物静かなキャラクターが、体を動かした後や何かに勝った後だけ積極的になるというギャップのある展開も、こうしたホルモンの一時的な底上げという観点から見ると、なかなかリアリティのある描写だと言えそうです。「行動の直後」というタイミングそのものが一つの演出上のフックになっていると捉えると、シチュエーション選びの視点も少し広がるかもしれません。積極性・攻め系のシチュエーションが好みの方は、こうしたジャンルのコンテンツをチェックしてみるのもよさそうです。

参考にした情報源

本記事の作成にあたっては、主に以下のような情報を参考にしています。

  • Kraemer, W. J., & Ratamess, N. A. (2005). “Hormonal responses and adaptations to resistance exercise and training.” Sports Medicine, 35(4), 339-361. (PubMed ID: 15831061)
  • D’Andrea, S., Spaggiari, G., Barbonetti, A., et al. (2020). “Endogenous transient doping: physical exercise acutely increases testosterone levels—results from a meta-analysis.” Journal of Endocrinological Investigation, 43, 1349-1371.
  • Casto, K. V., & Edwards, D. A. (2014). “Testosterone across successive competitions: evidence for a ‘winner effect’ in humans?” Psychoneuroendocrinology, 47, 1-9. (PubMed ID: 25001950)
  • Mehta, P. H., & Josephs, R. A. (2006). 敗者側のテストステロン変化と再戦意欲の関連を調べた対戦実験(複数の学術系解説記事で要旨を確認)。
  • テストステロンの発見・命名史(1935年の単離・命名、化学合成の成功、関連研究者のノーベル化学賞受賞に関する経緯):European Journal of Endocrinology 掲載の総説等、複数の学術系解説記事を参照。

ご利用にあたって

本記事は、性に関する科学的な話題を分かりやすく紹介することを目的としたものであり、医学的な診断・治療・助言を目的としたものではありません。体調や性機能について気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

本記事で紹介している「ウィナー効果」やテストステロン変動に関する研究知見は、執筆時点で確認できた情報に基づくものです。対戦・競争場面を対象にした限られた規模の研究も含まれており、科学的な知見は今後の研究により更新される可能性があります。

ホルモンの働き方や感じ方には個人差があります。本記事の内容がすべての方に当てはまるとは限りません。

本記事内のイラスト・図解の一部は、生成AIを用いて作成したイメージ画像です。実際の医学的な図解とは異なる場合があります。